今日のSINoALICE(シノアリス)はどうかな?
森は私にとって、母のような存在であった。
私にとって、心落ち着く場所は、最早森以外になかった。
買える場所はある。だが、そこに居場所と言えるようなぬくもりはない。
長年植え付けられた恐怖心が自然とそうさせる。
「帰らないと。帰らないと。」口から零れる言葉に、意識は宿っていない。
怪しく騒めく茂み。そこから染み出してきたのは、黒き獣。
「私が今いる場所は、元いた世界とは異なる場所だ」
そんなことはどうでもいい。今はただ、目の前の脅威を打ち払うのみ。
振り返るとそこに居たのは、人間。
私は、己の境遇を説明し、どこか近くの町への案内を頼めないか?と依頼しようと瞬間であった。
そこには悍ましい怪物と対峙するような敵意が含まれていた。
先ほど私だって躊躇わなかったではないか。納得すると同時に、ようやく出会えた人間は躊躇せず、私を殺さんと襲い掛かってきた。
息も絶え絶えにたどり着いた湖畔。
「これが・・・私、なの?」
こんなことには慣れていない。自分の容姿がある日突然変わる、そんな怪奇な現象など。
下卑た男の矯正が木霊する暗い部屋。そこが私の生きる場所。
物心つくより前から、そこが私の帰る家になっていた。
両親の姿は思い出せない。
命令に背けば、暴力を振るわれ、指名を増やすため、媚び続けた。
暗く閉ざされた世界で、私は生ける傀儡と化していた。
心が壊れる者が大半を占める環境において、私がそうならなかったのは拠り所があったからに他ならない。どれだけ躰が汚されようとも、心までは汚せない。
辛いときは決まって不遇な少女が救われる物語を反芻した。
シンデレラ。それが私の憧れであり、希望のすべてであった。
覚醒した意識と共に見渡した世界は、焦がれ続けた物語の世界が広がっていた・・・
私はいつも夢見ていた姫となるため、家臣を集めることにした。
気付けば、足元で蠢く蛇の群れ。初めて出会う私よりも身分の低いもの。
あぁ。ようやく思い出した。私は死んだのだ。
私を娼館から買い取ったのは王子様ではなく歪んだ性癖をもった只の商人であった。彼は私を精一杯愛した後、蔑むような視線を向け、私に覆いかぶさり、首の骨を砕いたのだ。
「ドウシテ私ニ迎えガ来なかっタノ。ドウシテ私の美しい容姿ハ奪われタノ。・・・シンデレラ。美しければ、イヅレ救ワレルハズデショウ?」
背反する想いが、胸の中で攪拌される。
再び現れた死神の、優しい手招き。その視線に含まれた憐憫は勝者の余裕が漂っていた・・・
「ねぇ・・・いっそのこと。私を、殺して・・・」
生きて他者に蹂躙される人生を過ごし。夢にても他者に利用されるくらいならば。この体を縛る業苦から解放されることを求めた。
微かに揺れる唇から紡ぐ返答は、宛先も無く揺蕩う。それは限りない虚無に溶けて消えた・・・
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